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「休業」か「解雇」か

㈱らくらくカウンセリングオフィス 2011/03/28
らくらくカウンセリングオフィスは、働く人と雇う人を支援します


当社役員の脇田です。
被災地の報道をテレビで見ていて、ある被災企業の社長の津波で工場を喪失してしまった方の、再建へ向けての活動の様子を取材している番組に、ふと、次のようなことを考えました。

その社長さんは、宮城県内の海岸にほど近いあたりの工業団地内に工場を持っていて、そこである特殊な防火扉を開発して羽田空港などに納品していました。
小さな工場ですが、そこでしか造れない独自の設備と技術を持っていたわけです。

その企業の従業員は30名ほどで、確かに売り上げ規模から言えば「中小企業」の部類に入るのでしょうが、持っている技術は国内唯一のもので、そういう意味では「大企業」並みの影響力を持っている企業です。この企業の工場が機能を停止すると、おそらく国内のある特殊な目的の防火扉が造れなくなるのでしょう、

こんなような、「小さい工場だが影響力は大きい」という企業が、日本国内にはざらにあります。一匹の小さな寄生虫が大きな動物の生命活動を助けているようなものです。

その企業の社長さんが、津波で崩れ去った工場の前で茫然と佇んでいます。工場の骨格だけは残っているのですが、その中に設置されていた高価な機械はすべて破壊され、使い物にならなくなっています。
しかし社長さんは、なんとか工場の再建を志します。そして役場を回って被災者の支援基金や助成金を受ける道を探し、その結果、何とか今月の銀行への借り入れ返済を延ばすところまでこぎつけます。

場面はまた廃屋となった工場へと戻ります。そこには被災しながらも生き残った数名の社員が集まっており、その人たちに向かって社長は次のように語りかけます。
「私は何とかこの工場を再建したいと思っている。しかしこの状態だから皆さんに給与を払える状態ではない。もし私と一緒に再建に尽力してくれる人がいたら、その人は「休業」という扱いにして無給で私と一緒に働いてほしい。しかしもし、それができない人には「解雇」という道がある。どちらを選ぶか、皆さん一人ひとりで考えてほしい」と。

さあ、この社長の問いかけに、あなただったらどう答えるでしょう。「頑張って!」と応援メッセージを送りますか? でも一体、何を頑張ればいいのでしょう。

「休業」の場合、これは会社都合の休業なので、通常ならば労働基準法に則って平均賃金の6割の手当てが支払われるでしょうが、地震という外部要因があるので、今回の場合は「無給」となります。ただ単に、会社に籍があるので今後再建できた場合に休業の期間中が「労働日数」に加算されるだけです。

しかし「解雇」を選んだ場合、これは会社都合の解雇でありしかも被災地の特別な法令が適用されるでしょうから、かなり手厚い「雇用保険」、つまりこの場合はいわゆる「失業手当」が、支給されるでしょう。

この社長の問いかけに対し、社員の中には、再建の見込みのない荒れ果てた工場ではありますがそこで「皆で力を合わせて頑張ろう!」と言った方もいました。
逆に工場の隅で下を見つめたまま、力なく、「よく考えてみたい」と答えた社員もいました。

彼らは何を「頑張れ」ばいいのでしょう。再建へ向けて「頑張る」? それとも失業し再就職へ向けて「頑張る」? どちらも楽な道ではありません。どちらにも希望があり、どちらにも行き止まりがあります。

ここには「意思決定」の問題のもっとも典型的な例が見られます。意思決定とはつまり、生きる道を選ぶことです。そしてそこには常に、「成功」と「失敗」の未来が、そのどちらかではなくその両方が、待ち受けています。

もしこの工場の社員が、「どちらを選んだらよいかわからないんです」と相談に来たならば、カウンセラーはどう答えるのでしょうか。というか、あなたならどのように対応するでしょうか。というか、私ならばどう対応するだろうか?

復興のために私たちができることがあるとしたら、それは義援金を送ることだけではなく、もちろんそれも大切な支援ではあるのですが、その一方でこのような問題を、つまり誰もが直面せざるを得ないこうした問いを、カウンセラーが自らに問い続けることにもあるような気がします。
 

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