らくらくカウンセリングオフィスは、労働者と雇用主のためのEAPプロバイダーです
当社役員の脇田です。
「機能分析心理療法」という本を最近読んでいます。
いわゆる「第3世代の認知行動療法」に分類されるコーレンバーグの著作で、S・ヘイズと並ぶ現代行動心理学者による最新の研究書です。
この本の中でコーレンバーグは、カウンセリング中のクライエントの行動を3つの種類に分け、「CRB1:セッション中に生じるクライエントの問題」「CRB2:セッション中に生じるクライエントの改善」「CRB3:行動に関するクライエントの解釈」を挙げています。
CRBは、「clinically ralevant behavior」の略で、「臨床関連行動」といういかにも直訳口調の訳語を与えられていますが、要するにカウンセリング中にクラインエントが起こす行動の意味です。もちろんこれは行動心理学上の用語なので、ここで言う「行動」には「言語行動」も含まれていますから、クライエントの発言にもまたCRBが現れていると考えるわけです。
しかし、上記のCRBの定義をよく読んでみるとわかるとおり、通常の心理療法で、このような行動に着目することはあまりありません。「あまり」と書いたのは、唯一、精神分析では、「転移」としてこのような行動を把握しているからですが、少なくとも、ロジャーズに始まるカウンセリング環境の中では、CRBのような行動に着目しようという考え方はしません。
労働者と雇用者とのコミュニケーションの文脈でこのことを考えてみると、コーレンバーグの視点がフツウではないことがよくわかります。
上司は部下に対して、「ホウレンソウが大切だからそれをいつも怠らないように」と言いい、部下も折に触れて「ホウレンソウ」を行います。この「ホウレンソウ」自体は言語行動であり、多くの場合それは「タクト(報告)」です。時には「マンド(要求)」も含まれるでしょうが、多く場合、出来事の報告であり、その出来事についての解釈や感想や疑問であるでしょう。
上司はそれを聞いて、新たな「情報」を得、それをもとに判断したり指示を与えたりするでしょう。それが社内コミュニケーションの基本的な形です。
しかし、部下がホウレンソウをするその言語行動の中に「問題行動」を見出だしたり、逆に「改善行動」を見出だしたり、ましてや、その言語行動自体を部下が解釈しているのを目の当たりにすることはないでしょう。なぜなら、そのような言語行動はつまりホウレンソウをする行動自体に言及するいわゆる「自己言及的」な言語行動だからであり、フツウ人はそのような自己言及的な行動をしないものだからです。(というか、おそらくそのような自己言及的行動は弱化され、自己史のどこかの段階で消去されてきたのでしょうが)
では、ホウレンソウ以外の機会に、上司が部下のCRBに着目することはあるのでしょうか。休憩時間に、あるいはちょっとしたすれ違いざまに、あるいはもしかしたらざっくばらんな無礼講の飲み会の席で、CRBのような部下の行動を目にすることはあるのでしょうか。
なるほど確かに、すぐれた上司は、部下のホウレンソウの一言一言のその内容ではなく語り口に、あるいは飲み会での愚痴の一言一句に表出される感情表現に、なんらかの問題や改善や解釈を見出だすことはあるでしょう。しかしそれはごくまれで、しかも意識的になされているものではありません。多くの場合、上司は部下のホウレンソウの内容に目を奪われていて、そこにあるCRBは見えていません。
しかしもし、上司がいち早く部下の問題に気づくためには、このCRBに着目する必要があるのではないかと私は思います。フロイトの言う「転移」と同じ現象が、働く者と使う者との間でも生じているのではないか、私にはそう思えてなりません。 |