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錬金術という心の営み

㈱らくらくカウンセリングオフィス 2011/04/24
らくらくカウンセリングオフィスは、名古屋のEAPとして活動をしています。

名ばかり役員の脇田です。

ユングの大著に「心理学と錬金術」という著作があり、買っても高すぎるし、図書館で借りてもとても返却日までに読み切れるボリュームではないので、しかたなく河合隼雄さんの紹介文を読んでわかったつもりになっていたのですが、しかし講座で説明をするほど理解していないため、なんとかもっとしっかりと理解したいと思いながらも月日は過ぎ、ある日ふと、平野啓一郎の芥川賞受賞作品が錬金術師の話だったと気がついて「日蝕」をさっそく読んでみました。

平野さんは当時最年少の芥川賞受賞者として有名になり、その後も男女の問題やらインターネットの落とし穴やらの作品を出していて、最近著の「形だけの愛」がけっこう書評で取り上げられていたので、初期作品である「日蝕」にも期待していたのですが、どうもユング的理解とは筋が違っていたようです。作品としてはすごくよく書けていて、とにかく知らない言葉や読めない漢字が頻出し、それはそれで圧倒されるのですが、また、ストーリー展開もSF・ホラー小説的で読ませます。でも、ちょっと、「え、これが錬金術?」という疑問が残ることは否めなくて、やはりユング的錬金術の理解には至りませんでした。

錬金術とは、読んで字のごとく「金を作る」技術なわけで、そこには化学の初歩的な技術が生かされていたわけですが、もちろん化学反応だけで金ができるわけがなく、できない金をいかに作るかというところから外的世界への内的世界の浸食が始まるわけです。ユングの研究はその辺のプロセスを明らかにしようとしているようなのですが、何といっても「心理学と錬金術」は読みにくい。まあ、これが読みこなせるようになれば、いっぱしの「ユング派」を名乗れるのかもしれませんが。

錬金術を理解するキーはおそらく、それが1人でなされる技術ではなく、2人で、つまりカウンセラーとクライエントの共同作業によってなされるという点にあるのだろうと、私なりに理解をしているのですが、残念ながら平野さんの作品ではこのような点が全く描かれていませんでした。1人で行う営みとしての錬金術は、せいぜいセルフケアーにしかならないと思うのですが、ううん、でも考えれば考えればなぜ卑金属から金が造られるというファンタジーが描かれたのか、その辺がよくわかりません。

思えば、私の大学時代にユングの「人間と象徴」が訳出され、大学の友人はこぞって読んでいたようで、なかには「自伝」を丹念に読みこなし、「脇田君、だまされたと思って読んでみたまえ」と言って勧めてくれる先輩がいたのですが、残念ながら「自伝1」の、それも冒頭の数ページで眠気に負け、挫折してしまった次第です。「原型論」も「夢分析」も、ぱらぱらとめくってはみたものの何が言いたいのかさっぱり分かりませんでした。私に理解ができたのは、せいぜい「タイプ論」くらいで、それも、なんとなくわかるかなという程度です。

とにかくユングは、私にとってはいまだに遠い存在です。
 

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